電波感度をよくするケータイ・スポット・アンテナの開発Blog

第4話「法人へのアプローチ」

2007.10.12

 前回、触れたように、ケータイ・スポット・アンテナはウェブを中心とした販促活動が起点となっています。だからこそ、製品特性をしっかりと訴求し、ユーザーにメリットとなる情報を配信することが重要になってきます。そのために開発ブログという仕掛けがあり、連動する形でEコマース(ケータイどっとこむ)がユーザーとの窓口になっています。しかし、当然のことながら、それだけでは十分な販売活動に結びつきません。電波環境に不満を持っている潜在ユーザーの掘り起こしというアクティブな販売促進活動も必要となってきます。その時に活躍するのが、対人による営業活動です。

 そこで今回は、営業部の活動にスポットライトを当て、開発部との連携について紐解いていきたいと思います。

法人へのアプローチ

 当社営業部は基本的には、法人団体へのアプローチが中心となります。
「もともと弊社はボタン電話の販売からはじまった会社で、時代とともに携帯電話にシフトし、そのなかで携帯電話のショップを構えるようになったんですね。そうしたなか、企業など法人さんでは固定電話から携帯電話への通話が増えるようになってきていました。結果、通話料が割高になってしまい、料金負担に悩まされていたんです。そこで、コスト面の負担から解放する目的で弊社が開発したのがモバイルジャックという商品です。そういう意味では、法人さんの電話や携帯電話での課題に対するソリューションを提供する、というのが営業部の大きな役割になってきます」と話すのは、今回話を聞いた営業部・平野逸平。
 モバイルジャックとは、『固定電話からの発信を携帯電話の回線を使って着信させるシステム』のこと。モバイルジャックを設置することで、企業など法人団体にとってはコストメリットを生むことになり、法人ユーザーが増加しました。
当社が開発したモバイルジャック
【写真1】発表当時の新聞記事(日経)とモバイルジャック

「現在では、大きく分けると、個人ユーザー向けにはショップとEコマース、法人ユーザー向けには営業部がグループとして対応するという形になります。もちろん、それぞれが独立しているのではなく、ショップに来られたお客さんに法人向けの案内をしたり、逆に法人さんの方から相談を受けてそれをショップに返すという連携をとっています」(同営業部・平野)。

 ケータイ・スポット・アンテナも、開発過程において、そうした営業部との連携が図られました。それは、平野が顧客としている会社から相談を受けたことがはじまりでした。


電波環境をなんとか改善したい!

「まだケータイ・スポット・アンテナの開発途中のときなのですが、私が法人契約でau携帯電話を販売させていただいたお客様で、電波がおかしいという問い合わせが入ったんですね。それも、まずキャリアの方に話されたみたいで、キャリアさんから『どうにかならないか』と相談を受けたんです。お客様から相談を受けている以上、何もしないというわけにはいきません。そこで、ちょうど弊社ではアンテナを開発していますし、一度電波をテストしてみようか、という話になりました」(営業部・平野)。

 そして、平野と藤井常務、開発部のメンバーが現地へ赴き、電波の測定を行うことになりました。場所は、中央卸売市場。お客様は、市場内にオフィスを構える卸売業者様です。
 現地で実際にau携帯電話を使って発着信の状況を確認してみると、確かに電波環境は良くないようです。つながるのに時間がかかり、つながっても通話途中にプツリと切れてしまう状態です。
「電波を測ってみると、auの電波塔と電波塔のちょうど中間ぐらいにその場所があり、電波が干渉しあっているということがわかりました」(営業部・平野)。

 中央卸売市場は日本各地から食材を集荷し供給する、大阪の台所。当然ながら鮮度が問題となり、より迅速な連絡・対応が大切となってきます。そんななか、電波不感に悩まされている卸売業者さんは携帯電話で各取引先の方とやりとりをすることが多く、業務に支障が出ているようでした。
 そして、そのお客様の課題に対応すべく、私たちは開発中のケータイ・スポット・アンテナをお客様にご案内することになったのです。
 
 設置したアンテナは、au4分配システム
 オフィスのなかでも、干渉を起こしau携帯電話を使えない机のシマに、3台設置することにしました。
「建物の構造や屋内の電波環境・構造によっては、電波環境を改善できないかもしれないと開発部から聞いていたので、設置にあたっては、本当にドキドキしました。でも、開発部の面々が手を尽くしてくれたおかげで、なんとか無事設置することができ、電波を改善することができました。お客様からもau携帯電話が使えるようになりましたという声もいただいており、本当に良かったなと思っています」(営業部・平野)。

【写真2】オフィスへ設置したスポットアンテナ

 このオフィスへの納品は、実際にアンテナの有効性が実証され、それが顧客満足につながるということがわかったという意味では、大きな意味を持つものであったといえます。
「他にも、東京の営業部からau携帯電話の電波が入りにくいという相談を受けて、弊社のアンテナで対応できないかと検討したりということもあるようです」(営業部・平野)。

 前述したように、現在、ケータイ・スポット・アンテナは、ウェブを起点としたマーケティング活動を展開しています。そして、電波環境に悩みをもたれている方からのお問い合わせは、発売以来増加し続けています。そういったお問い合わせに対して、当社では専用の窓口を設置し対応しています。
 しかし、ウェブからの集客だけでは、電波環境に悩まされている方すべてに情報をお届けすることはできません。平野のケースのように、直接ユーザーと接する営業マンにも期待するところは大きいといえます。
 
 これからもケータイ・スポット・アンテナは、改良を重ね、より機能性を追求していくとともに、そのラインナップも充実させていきます。そして、電波不感のストレスから、ひとりでも多くのお客様を解放したいと考えています。だからこそ、ひとりでも多くのお客様にケータイ・スポット・アンテナのことを知っていただきたい。そのためにも、企画開発部はもちろんのこと、営業部も足並みを揃えて進んで行きたいと思っています。

※今回実例としてご紹介しました卸売業者オフィスへの設置は、当ブログ内「アンテナ・ラボラトリー」でもご覧いただけます。

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第3話「アンテナと市場をつなぐ」

2007.09.25

 第1話、第2話と藤井常務の話をもとに、ケータイ・スポット・アンテナの開発の立ち上げから商品化までを紐解きました。
 しかし、それは事業全体の大きな流れを提示したに過ぎません。商品化までのプロセスには、さまざまなフェーズが存在し、そのときどきでさまざまな部署・分野の人間が事業に関わっています。
 第3回目となる今回は、そのプロセスのなかで、マーケティング活動において重要な役割を果たしたインターネットからのアプローチにスポットライトを当てていきます。

ネットビジネスへの参入

 読者のなかには、前回までの話で特に印象的だったエピソードとして、「商品化までの2つの壁」というくだりを挙げられる方も多いのではないでしょうか。
 「商品化までの2つの壁」とは、「開発研究してひとつのプロトモデルを作り、そして市場に出せそうだなと到達するまでの壁と、実際にその製品が市場に受け入れられるまでの"商品"になる壁」のことです。なかでも、2つ目のマーケティングでの壁は「市場」という不確かな要素が対象となるため、一筋縄ではいきません。ケータイ・スポット・アンテナも、そうしたマーケティングのところで、大きな谷を感じていました。
 そうしたなか、市場との接点として大きな役割を果たしたのが、開発ブログです。その立ち上げにおいて、企画部分で動いたのが、eビジネス企画本部です。
「もともと当社にはインターネットによる収益モデルはありませんでした。でもその当時、携帯電話の流れが音声から通信へと動いていて、コンテンツというものが来だしていたんですね。当時、当社は携帯電話(ハード)の販売がメインでしたが、そのハードを活かす形でソフト(コンテンツ)側のものをできないかな、という思いがありました。加えて、ネットビジネスというものが浸透してきていた時期でもあり、弊社でも新たな事業の柱を持ちたいという思いもありました。そういう流れのなかでEコマースの企画へとつながり、携帯パーツのオンラインショップとして"ケータイどっとこむ"を立ち上げることになったんです。」と話すのは、eビジネス企画本部の松本本部長。

ケータイどっとこむ
【画像1】純正パーツや関連商品のオンラインショップ ケータイどっとこむ(http://www.k-tai.com/


そして、その立ち上げの企画とほぼ並行した形でケータイ・スポット・アンテナの開発が進められており、インターネットを通してユーザーと接点を持つという構想のもと、ブログの立ち上げが議論されるようになりました。
「Eコマースとは別に、当時ビジネスブログが出だしの頃で、私たちとしても、会社としてビジネスブログを採用してはどうかなと思い始めていたんです。つまり、それによって、ネットでのブランディングというか会社の取り組みがPRできるのではないかと思ったんです。
あと、アンテナ開発を進めていくなかで、当然のことながら販売や流通のことも考えていかないといけません。そういう意味で、市場のニーズを把握したいという思いがありました。つまり、弱電や圏外というのは誰もが経験することですが、果たしてどこまでの機能をアンテナに持たせればお客様に満足していただけるのかを知りたかったんですね。開発側の自己満足で終わらず、市場が求めている商品……その答えをブログを通してリサーチしていきたいという考えがありました」(松本本部長)。
 そうした会社としての思惑と商品化へ向けた課題克服への思いが合致し、開発プロセスを公開するという形で、「アンテナ開発ブログ」が立ち上がるにいたったのです。2005年10月のことです。
アンテナラボラトリー イメージ図
【図1】開発ブログ立ち上げ当時から名称を変更して続く「アンテナラボラトリー」では、図表を効果的に使い、電波不感の原因を分析しているほか、ケータイ・スポット・アンテナの実験プロセスも詳細に公開しています。

  しかし、前述したように、当社にはネットビジネスのノウハウはなく、当然のことながら、手探りのなかでのスタートとなりました。
「特に対策チームなどを作ったということではないのですが…色々勉強していくなかでわかったのは、ブログというのは要するに「個人日記」ということ。だから、そういうものを会社として提供するというところで、課題はありました。例えば、表現方法。会社で出す以上、トーンは守らなければいけないでしょうし、文末処理にも気を使いました。また、どうしても会社で出すとなると、発信したものに責任が出てきますよね。となると、コメントやトラックバックをいただくということに対して、その内容を判断する規約なども必要になってきます。だから、最初はそういう基本的なところで悩んだという感じです」(松本本部長)。

開発ブログのビジョン

 初めてのチャレンジであれば、当然ことながら、解決していかなければいけない懸案事項というものはいくつも出てきます。企画本部が最初に戸惑った会社としての責任という点もそうしたクリアすべき対象のひとつだといえるでしょう。
 ただし、そういった規約作りなどは、あくまでも最低限の環境整備だといえます。本当に大切なのは、立ち上げてからの方向性です。その辺りのビジョンについて、松本本部長はどのように考えていたのでしょうか。
「あの当時は3Gの携帯電話が出だしの頃で、3Gケータイは電波が入りにくい状態でした。そういう事実や改善への取り組みをうまく説明してあげる場所であれば、それだけでも、お客様に喜んでいただけるのではないかなと考えていました。まずはそこをしっかりと伝えていこうということが最初のビジョンでしたね。でも、正直続けていけるかな、という不安もあったんです。ブログというのは動きがないといけないですし、一回作って終わりでは意味がないですからね。でも、電波太郎が頑張ったおかげで(笑)順調に進んできていますよね。アクセスログを取っていても、専門用語から検索されていたりしますのでね。後、常務もおっしゃっていましたが、『感動しました。頑張ってください』というコメントもいただいたりして、すごく励まされましたね」(松本本部長)。

ブログによる機能訴求

 開発の過程をオープンにすることで読者からのリアクションを得るということは、「市場と接点を持つ」という意味で、非常に効果的であったといえます。
 加えて、松本本部長は、ユーザーとのタッチポイントの先にある販売という面でも、「開発ブログ」は機能していると分析しています。つまり、実験のプロセスを詳細にリポートすることで、ユーザーにとっては、アンテナの効果を購入前から確認することができるのです。
「大きなアドバンテージだと思います。認知度以外の面でも、オリジナル性の高い商品であればあるほど、商品を市場に出すときが難しいんです。つまり、お客さんは"買ったはいいけど、使えない商品だったらどうしよう"という心理を持つんですね。そりゃ見たことのない製品ですから当然です。でも、当社の室内アンテナに関しては開発の段階からすでに機能を告知できていたわけですからね。」(松本本部長)。
開発ブログと並行して開発が進められた室内アンテナ。
【写真1】開発ブログと並行して開発が進められた室内アンテナ。

 商品は、その製品の機能がユーザーにとってなにかしらのメリットをもたらすものでなければ、購買には結びつきません。しかし、その機能がいくら高度であっても、ユーザーに上手く訴求できなければ、商品として成立しません。
 そういう意味では、ケータイ・スポット・アンテナは、開発ブログによってはじめて"製品"から"商品"となったといっても過言ではありません。
「最初に言ったように、ブログは作って終わりではありません。開発ブログでは、これからも電波不感やアンテナに関して、お客様のお役に立てる情報を充実させていきます。また、それと連動して、ケータイどっとこむでも、お客様のニーズに応える商品ラインナップにしていきたいと考えています。これからも、どうぞご期待ください」(松本本部長)。

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第2話「開発、そして市場へ」

2007.08.24

 第1話で触れたように、テレセン株式会社は携帯電話の販売会社であり、アンテナ関係の開発会社ではありません。そうした会社がいかにして局面を打開し、商品を市場に出すまでに至ったのか……。第2話では、引き続き藤井常務の話をもとに、開発から市場化に至るまでの過程を追っていきたいと思います。

キーワードは、巡り合わせ

 「電波法に抵触せず電波を増幅しない合法的なアンテナがローコストで設置できれば、ユーザーを電波不感のストレスから解放でき、ビジネスとしても展開できる」。そして、とにもかくにも、プロジェクトは動き始めました。
 しかし、当然のことながら、すんなりとすべり出したわけではありません。
「いざ開発するとなると、いろいろ問題が出てきました。まず、当社は高周波やアンテナの技術者がいるような会社ではないですし、工場や生産ラインを持っているわけではありません。そこで、まずは人を募集することからはじめました。
 そして、社長に事業展開を明記した企画書を提出し、了承を得て、ようやく開発は具体的に動き出すことになりました。自社に開発ノウハウがない当社にとって、それはまさに未知のプロジェクトです。
 では、藤井常務を中心としたチームは、技術ノウハウや製造メーカーとのネットワーク、インフラに関する技術的な情報がないなかで、どのように開発を進めていったのでしょうか。
「考えていても仕方ないので、とりあえず作ってみようと。作っていくなかで、技術的にわからないことは、大学の先生に相談しました」(藤井常務)。
 その技術顧問となった先生とは、大阪電気通信大学の小南教授です。
 しかし、技術サポートを得て、論理的には運用可能なアンテナが作成できるとわかっても、実際にアンテナの機能を検証するためには、試作機を制作しなければいけません。
「もちろん、当社には、試作機を制作する会社とのネットワークはありませんでした。どうしようかなと思っているとき、偶然、よいパートナーとして試作から製品化までを制作してもらえるアンテナのベンチャー企業と巡り会いました。そして、今までの経緯、現状、我々の想いをお話して、そちらにお願いすることができました」(藤井常務)。

 電波測定のノウハウを持ちアンテナに興味を抱く社員の入社、そこから派生した技術顧問・小南教授による的確なアドバイス、そして、アイデアを形にしてくれるパートナー会社との出会い。まさに、幸運な巡り合わせだといえます。そうした出会いを経て、開発は進み、ようやく試作機の完成へと至りました。
 しかし、それはあくまでも試作機。実際にテストをしてみないことには、たんなるアンテナにすぎません。それが本当に開発初期に構想していた狙い通りのアンテナとして機能するか……。
 そこからは、実用化へ向けての実証実験の日々。来る日も来る日もテストを行い、その結果をもとに細部を調整するという日が続きました。
「1年ほど実証実験を行いました。実施場所に関しては50箇所ぐらいですかね。タワーマンション、超高層のオフィスビル、さらにはビルの地下の飲食店やバーとか……。そこでも我々にとっては、うれしい巡り合わせの連続でした。例えば、ビル地下の飲食店なんですが、"テナントが入らない"とオーナーさんが焦られていたんです。電波が入るようにしないと、テナントとして契約してもらえないんじゃないかと。そこで、アンテナの実験に協力してほしいと願い出たら、"いいですよ"、と。おかげで、腰を据えて実験ができましたので、非常にラッキーでしたね。あと、大変だったということでいえば、山の中の実験ですね。山の中は基地局から遠いということもあり、電波が劣化した弱電状態となることが多いんです。そこで、私と部下とでアンテナを抱えて実験を行いました。"ここはどうや?"とかいいながら(笑)。いまから振り返れば、随分いろんなことをやったもんだと思います。でも、それが積み重なって、いまに至るわけですからね」(藤井常務)。

ビル地下での実験の様子
【写真1】
ビル地下での実験の様子
 
 ここでも、実験場所の提供など、うれしい出会いが開発を後押ししてくれました。ここまで読まれてきた方には、順調に開発が進んできたかのように映るかもしれません。しかし、何度も繰り返しますが、すべての作業が当社にとっては、手探りでの進行となります。逆にいうと、ひとつとして、スムーズにいったものはないといえるかもしれません。その過程においても、「これは無理じゃないか」と思うことも、当然ありました。

市場までの2つの壁

「製品を開発して市場に出すまでには2つの壁があると思うんですね。つまり、開発研究してひとつのプロトモデルを作り、そして市場に出せそうだなと到達するまでの壁と、実際にその製品が市場に受け入れられるまでの、「商品」になる壁です。最初にぶつかったのは、1つ目の製品化にあたっての技術的な壁です。技術理論よりもアイデアだけで突き進んできたので、やればやるほど、技術的な行き詰まりというものが出てきたんですよ。あるいは、電波理論の定説というのが立ちはだかったりもしました。そのたびに小南先生に相談して、アイデアをもらいながら、進めていきました。アイデアをもらって、それを開発にフィードバックして、そしてまた立ち止まったら相談をして……。本当に試行錯誤でした」(藤井常務)。

 そして実験を通して、開発チームは「ある条件のもとではお客様に満足してもらえそうなものができた」という手応えをつかみました。開発に着手してから1年弱の月日が流れた平成17年9月のことでした。
 実用化のメドが立ち、開発チームは安堵の気持ちを感じるとともに、ひとつの不安も感じていました。それは、市場での問題……藤井常務の言う2番目の壁です。
「アンテナ開発の実績やノウハウがない会社がマーケットに受け入れてもらえる商品をどうやって出すのかと考えると、実際に製品はできても、マーケティングのところですごく大きな谷があるんです。なんとかお客さんと接点を持つ方法はないかと頭をひねりました。そこで、いま実験していることを全部吐き出しちゃえと思ったんです。それが、開発ブログを立ち上げたきっかけです。ブログのなかでは、実験におけるプロセスをすべて公開しています。アンテナ関係の仕事をしている人からすると、そこまで出すのかということまで公開しています。だから一時期キャリアさんやメーカーさんからのアクセスが増えたんです。みんな関心を持っているんですね(笑)。もちろん、ユーザーさんからの開発の応援メールや困っていることなどの書き込みも多く、"こんなニーズもあるのか"という発見も多くありました」(藤井常務)。

 マーケットとの接点として始められたブログですが、実は開発においても大きな意味を持つことになりました。つまり、実際にユーザーの声を反映することで、開発が大きく前に進むことになったのです。
 それは、1通の書き込みでした。そこには、「とにかく携帯電話が使えるようになればいい!」ということがストレートに書き込まれていました。

「その言葉は強烈に響きましたね。アンテナというのはワイヤレスで使うのが当たり前ですが、本当に困っているユーザーさんにとってはそんなこと関係ないんです。それだけ切実なんです。要するに、ユーザーさんからしてみると、形よりも携帯電話が使えるようになればいいんですね。あ、そうなんだ、と。形にこだわって大上段に構えるよりもお客様の問題を先に解決してあげることのほうが優先されるべきだと気づかされました。その一言がワイヤードタイプの開発につながったんです。技術的に難しいワイヤレスにこだわる必要がなくなったことで、開発も少し楽になりましたね」(藤井常務)。

 その後も、実証実験は繰り返され、いよいよ市場に出せる段階まできましたが、依然として第2の壁はクリアされていません。開発ブログによって、市場との接点は多少なりともできましたが、それでも「どう売るか」という問題は積み残されたままです。
「我々がアンテナを単独で市場に出しても売れるかな、という疑問は常にありました。携帯電話の業界はキャリアさんを中心にタワー(縦型)になっていますので、圧倒的にキャリアさんのブランド力って強いんですね。だから可能であれば、キャリアさんに近いところで流れる仕組みを作ることができればいいなと思ったんです。じゃないと絶対マスまで辿りつかない、と。数百万人のユーザーさんが困っている市場でもブランド力がなければ使ってもらえませんから」(藤井常務)。

 商品ができても、いかに流通させるかというマーケティングのジレンマ。しかし、そうした閉塞感を打開してくれたのが、開発ブログと当社の「ケータイどっとこむ」という携帯電話のオプションパーツや周辺機器を販売するweb shopでした。電波やアンテナというとマニアックなイメージがありますが、web shopでは、できるだけ判りやすくソリューションとしてお客様に商品を提案しています。
「ブログをウォッチされていたあるキャリアのグループ会社様からワイヤレスのパッシブアンテナの照会が入ったんですよ。それが平成18年の1月のことです」(藤井常務)。
 そこから10カ月間かけて先方と共同開発の話し合いが続きました。そして、今年完成し、お客様にお披露目されたのです。
 「電波不感によるケータイのストレスから開放したい!」という思いから始まったプロジェクト。さまざまな壁にぶつかりながらも、その都度さまざまな巡り合いと試行錯誤の果てにようやく発売へと実を結ぶことになりました。実に3年という時間を要した一大プロジェクトでした。

 現在、ケータイ・スポット・アンテナは自社ブランドとしても発売されており、ワイヤレス・タイプのアンテナも商品化されております。

ワイヤードタイプのアンテナワイヤレスタイプのアンテナ
【写真2】
ワイヤードタイプ(左)とワイヤレスタイプのアンテナ。

「本当にいろいろな人に助けられて発売までたどり着きました。でも、これで終わりではありません。タワーマンションの増加によって電波不感に悩まされる人の数も増えてくることが予想されます。都会だけでなく、地方や山間郊外などさまざまな携帯電話の利用現場から多くのお客様の声が届いています。そういう人たちに私たちの商品が届き、そしてすべてのユーザーさんが不自由なくケータイ・ライフを楽しんでもらうことが私たちのイメージする姿です。そうなるまでには、技術的な問題だけでなく、今後は電波法などの法規制も緩和されて市場も変化するでしょう。まだはじまったばかりですよ(笑)」(藤井常務)。

 第1話、第2話と、開発責任者である藤井常務の話を中心に、開発初期から現在までを振り返ってきました。
 でも、それは3年というプロジェクトを考えたとき、ひとつの大きな筋道にしかすぎません。文中にもあったように、開発は多くの巡り合わせを経て、さまざまな人の連携のもと進められてきました。また、文中で紹介していませんが、ユーザーからの有益な声を開発現場に届けた営業スタッフなども、プロジェクトのなかでは大きな役割を担っています。
 そこで、次回からは、そうしたプロジェクトを支えた各分野の担当者・サポーターにスポットライトを当て、彼らの声を拾うことで、プロジェクトの細部に迫っていきたいと思います。
 ぜひ、ご期待ください。

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第1話「開発前夜」

2007.08.10

電波が届かない。

 いまや暮らしの必須ツールとなっている携帯電話。通話はもちろんメール、インターネット、最近ではワンセグによる地上波デジタル放送の視聴など、その用途は限りなく広がっています。
 
 その携帯電話は、基地局から届く電波を拾うことにより機能します。基地局とは、文字通り、電波を発信する無線基地のこと。都市圏を中心として、電話会社ごとに夥しい数の基地局が設置されており、現在も増加の一途を辿っています。
 
 基地局が増加するということは、ユーザーからしてみれば、それだけ有効な電波が多くなり、ありがたい話のように思えるでしょう。
 確かに、基地局の増加により、電波は届きやすくなります。しかし、それは地上(路面)エリアに限った話であり、建物の中などのすべてのスポットに当てはまりません。
 つまり、基地局は地上(路面)エリアの電波環境を想定しており、路上での電波接続エリア向上を目的としているのです。そう、建物の高層階での通話は、基地局の増加とイコールにはならないのです。
 
 また、基地局が多くなるということは、結果として、電波同士がぶつかりあう「電波の干渉」が起こってしまい、電波が不安定な状態になってしまいます。特に、タワーマンションなどの高層階で顕著です。見通しがいい高層階では、それだけ電波が届きやすく、雑多な電波が影響を及ぼしあい「干渉状態」を引き起こしてしまうのです。また、ビルの地下など構造上電波の届きにくいスポットは、いくら屋外の基地局を増加したところで、問題の解決とはなりえません。
 そうした電波の不感対策として、電話会社では屋内対策用の小型基地局を用意しています。しかし、それは費用が高額なうえ、設置場所も限られてしまいます(図1参照)。結果として、ビル地下の飲食店などを中心に違法なブースターが氾濫することになり、それらが基地局にノイズを与えて、通常のユーザーが使えなくなるなど社会問題となりました。

【図1】開発するアンテナのポジション
 
 つまり、電波不感に対する有効な手だてはなく、多くのユーザーにとっては、深刻な問題となっているのです。現に、MM総研による「携帯電話の電波接続状況(不感エリア)」の調査(05年度実施)でも、携帯電話ユーザーの4人に1人が、電波接続状況に不満を持っているという結果が出ています。
 
 「ケータイ・スポット・アンテナ」とは、そうした電波の不具合を解消するために開発された、室内用補助アンテナです。部屋の中で比較的電波の届きやすい場所にアンテナを設置するだけで良好な電波を引き込むことができるのが、特徴です。面倒な工事や電源を必要としないので、ユーザーをはじめ電話会社からも注目を集めています。
【写真1】「ケータイ・スポット・アンテナ」ワイヤード・タイプ
 
 開発を行ったのは、私たち、テレセン株式会社。当社は携帯電話の販売会社であり、アンテナ関係の開発会社ではありません。では、なぜ、そうした会社が開発を行うに至ったのでしょうか。手前味噌ではありますが、これから8回にわたって、開発までのエピソードを、当時を振り返りながら書き綴っていきたいと思います。
 
巨大なるニッチ。
 
 私たちがアンテナ開発に着手したのは、いまから約3年前。2004年の9月のことです。しかし、この開発のプロローグは、そのさらに1年前、2003年にまで遡ります。
 
 当時、当社ではモバイルジャックという携帯電話の受発信補助装を販売していました。そして、その商品を販売していくなかで、ある電話会社から共同開発の話が持ち上がったのです。
「その電話会社さんは、2GHzという周波数の携帯電話を新たに市場で販売していたのですが、当時にしては高い周波数だったので、あまり電波が届かなかったんですね。そこで、高層マンションに住まわれているユーザーさんのために、そのキャリア用にモバイルジャックを改良できないかという相談がありました」と、当時を振り返るのは、ケータイ・スポット・アンテナの開発責任者である当社常務取締役・藤井氏。しかし、開発に向けて仕様を詰めていく段階で、その話は立ち消えてしまうことになりました。ところが、この商談はムダにはならなかったのです。この商談のなかで、常務はあることに気づいたのです。
「話をしていくと、今後携帯電話は、どんどん高速通信化していくことがわかったんです。つまり、今までは800MHzといわれていた周波数が、2GHzとか、2.5GHzが当たり前になっていくと。高い周波数でないと早いデータ送信ができないんですね。でも、周波数が高帯域化していくと、電波が届きにくくなります。従来の800MHzの基地局がサービスできていたエリアを、その高周波数に対応した基地局でカバーしようと思えば4つ以上の基地局が必要になってくるんです。それだけ電波が届かないということです。同時に、社会的な動きでみると、都心回帰現象の影響で超高層のタワーマンションが流行ってきていたんですね。そこで、タワーマンションの高層階のユーザーは全然電波が入らないという問題が起こってきました。これは新聞でも話題になったので、覚えてらっしゃる方も多いかと思います」(藤井常務)。
 携帯電話の周波数が高帯域化していき電波が届きにくいという現状。そして同時に、タワーマンションの増加によって、届きにくさが加速されていくというユーザーからの不満。私たちはそうした状態に、ビジネスの可能性を見いだしたのです。

【写真2】開発当時を振り返る藤井常務
 
 ここで、ひとつの疑問が持ち上がると思います。そう、そうした電波の届きにくい状態に対して、電話会社側はどういった対応を取ってきたのでしょうか。
「電話会社もそうした状態を放っておいたわけではありません。最初に声のあった会社にしても、何とかしないといけないという危機感の表れでしょうし。後、各会社とも室内用の小型基地局を持っているんですね。でも、小型基地局は、安くても数百万円という値段で、当然のことながら、一般ユーザーにとっては、非常に高価なものになります。また、小型基地局は電話会社にとっては電気通信事業法や電波法といった法律の上では、固定資産になるんです。自分たちの資産をそこに置くからには、ペイできる保証がないと難しいですよね。また、基地局として認可を受けて実際に設置して使えるようになるまで、半年もの時間がかかってしまいます。加えて、屋内対策用の小型基地局は自社ビルにしか設置できないんですね。つまり、テナントとして入っている法人や店舗は、電波が入らないと言ったところで、どうすることもできないんですね。そう、電話会社は屋内対策用の小型基地局を持っているけど、ローエンドのユーザーはその恩恵を受けられないという状態なんです。では、ローエンドのユーザーはどうすればいいかというと、電機店が売っているような機能の低いものか、社会問題にもなった違法なブースターを使うしかないんです。ギャップが大きすぎるんですよ」(藤井常務)。  
 そこで、藤井常務は電波法などを調べていき、ある結論に行き当たりました。「じゃあ、電波法に抵触せず電波を増幅しない合法的なアンテナがローコストで設置できれば、十分にビジネスとなるのではないか」。
 
 ユーザーの不満や不便を解消し、それが独自のビジネスにつながる……。それは、まさに私たちが求め続ける「お客様を起点とした商品・サービスの開発」でした。
 
 そして2005年9月、会社として開発に踏み切ることになりました。(続く)

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