電波感度をよくするケータイ・スポット・アンテナの開発Blog

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第2話「開発、そして市場へ」

2007.08.24

 第1話で触れたように、テレセン株式会社は携帯電話の販売会社であり、アンテナ関係の開発会社ではありません。そうした会社がいかにして局面を打開し、商品を市場に出すまでに至ったのか……。第2話では、引き続き藤井常務の話をもとに、開発から市場化に至るまでの過程を追っていきたいと思います。

キーワードは、巡り合わせ

 「電波法に抵触せず電波を増幅しない合法的なアンテナがローコストで設置できれば、ユーザーを電波不感のストレスから解放でき、ビジネスとしても展開できる」。そして、とにもかくにも、プロジェクトは動き始めました。
 しかし、当然のことながら、すんなりとすべり出したわけではありません。
「いざ開発するとなると、いろいろ問題が出てきました。まず、当社は高周波やアンテナの技術者がいるような会社ではないですし、工場や生産ラインを持っているわけではありません。そこで、まずは人を募集することからはじめました。
 そして、社長に事業展開を明記した企画書を提出し、了承を得て、ようやく開発は具体的に動き出すことになりました。自社に開発ノウハウがない当社にとって、それはまさに未知のプロジェクトです。
 では、藤井常務を中心としたチームは、技術ノウハウや製造メーカーとのネットワーク、インフラに関する技術的な情報がないなかで、どのように開発を進めていったのでしょうか。
「考えていても仕方ないので、とりあえず作ってみようと。作っていくなかで、技術的にわからないことは、大学の先生に相談しました」(藤井常務)。
 その技術顧問となった先生とは、大阪電気通信大学の小南教授です。
 しかし、技術サポートを得て、論理的には運用可能なアンテナが作成できるとわかっても、実際にアンテナの機能を検証するためには、試作機を制作しなければいけません。
「もちろん、当社には、試作機を制作する会社とのネットワークはありませんでした。どうしようかなと思っているとき、偶然、よいパートナーとして試作から製品化までを制作してもらえるアンテナのベンチャー企業と巡り会いました。そして、今までの経緯、現状、我々の想いをお話して、そちらにお願いすることができました」(藤井常務)。

 電波測定のノウハウを持ちアンテナに興味を抱く社員の入社、そこから派生した技術顧問・小南教授による的確なアドバイス、そして、アイデアを形にしてくれるパートナー会社との出会い。まさに、幸運な巡り合わせだといえます。そうした出会いを経て、開発は進み、ようやく試作機の完成へと至りました。
 しかし、それはあくまでも試作機。実際にテストをしてみないことには、たんなるアンテナにすぎません。それが本当に開発初期に構想していた狙い通りのアンテナとして機能するか……。
 そこからは、実用化へ向けての実証実験の日々。来る日も来る日もテストを行い、その結果をもとに細部を調整するという日が続きました。
「1年ほど実証実験を行いました。実施場所に関しては50箇所ぐらいですかね。タワーマンション、超高層のオフィスビル、さらにはビルの地下の飲食店やバーとか……。そこでも我々にとっては、うれしい巡り合わせの連続でした。例えば、ビル地下の飲食店なんですが、"テナントが入らない"とオーナーさんが焦られていたんです。電波が入るようにしないと、テナントとして契約してもらえないんじゃないかと。そこで、アンテナの実験に協力してほしいと願い出たら、"いいですよ"、と。おかげで、腰を据えて実験ができましたので、非常にラッキーでしたね。あと、大変だったということでいえば、山の中の実験ですね。山の中は基地局から遠いということもあり、電波が劣化した弱電状態となることが多いんです。そこで、私と部下とでアンテナを抱えて実験を行いました。"ここはどうや?"とかいいながら(笑)。いまから振り返れば、随分いろんなことをやったもんだと思います。でも、それが積み重なって、いまに至るわけですからね」(藤井常務)。

ビル地下での実験の様子
【写真1】
ビル地下での実験の様子
 
 ここでも、実験場所の提供など、うれしい出会いが開発を後押ししてくれました。ここまで読まれてきた方には、順調に開発が進んできたかのように映るかもしれません。しかし、何度も繰り返しますが、すべての作業が当社にとっては、手探りでの進行となります。逆にいうと、ひとつとして、スムーズにいったものはないといえるかもしれません。その過程においても、「これは無理じゃないか」と思うことも、当然ありました。

市場までの2つの壁

「製品を開発して市場に出すまでには2つの壁があると思うんですね。つまり、開発研究してひとつのプロトモデルを作り、そして市場に出せそうだなと到達するまでの壁と、実際にその製品が市場に受け入れられるまでの、「商品」になる壁です。最初にぶつかったのは、1つ目の製品化にあたっての技術的な壁です。技術理論よりもアイデアだけで突き進んできたので、やればやるほど、技術的な行き詰まりというものが出てきたんですよ。あるいは、電波理論の定説というのが立ちはだかったりもしました。そのたびに小南先生に相談して、アイデアをもらいながら、進めていきました。アイデアをもらって、それを開発にフィードバックして、そしてまた立ち止まったら相談をして……。本当に試行錯誤でした」(藤井常務)。

 そして実験を通して、開発チームは「ある条件のもとではお客様に満足してもらえそうなものができた」という手応えをつかみました。開発に着手してから1年弱の月日が流れた平成17年9月のことでした。
 実用化のメドが立ち、開発チームは安堵の気持ちを感じるとともに、ひとつの不安も感じていました。それは、市場での問題……藤井常務の言う2番目の壁です。
「アンテナ開発の実績やノウハウがない会社がマーケットに受け入れてもらえる商品をどうやって出すのかと考えると、実際に製品はできても、マーケティングのところですごく大きな谷があるんです。なんとかお客さんと接点を持つ方法はないかと頭をひねりました。そこで、いま実験していることを全部吐き出しちゃえと思ったんです。それが、開発ブログを立ち上げたきっかけです。ブログのなかでは、実験におけるプロセスをすべて公開しています。アンテナ関係の仕事をしている人からすると、そこまで出すのかということまで公開しています。だから一時期キャリアさんやメーカーさんからのアクセスが増えたんです。みんな関心を持っているんですね(笑)。もちろん、ユーザーさんからの開発の応援メールや困っていることなどの書き込みも多く、"こんなニーズもあるのか"という発見も多くありました」(藤井常務)。

 マーケットとの接点として始められたブログですが、実は開発においても大きな意味を持つことになりました。つまり、実際にユーザーの声を反映することで、開発が大きく前に進むことになったのです。
 それは、1通の書き込みでした。そこには、「とにかく携帯電話が使えるようになればいい!」ということがストレートに書き込まれていました。

「その言葉は強烈に響きましたね。アンテナというのはワイヤレスで使うのが当たり前ですが、本当に困っているユーザーさんにとってはそんなこと関係ないんです。それだけ切実なんです。要するに、ユーザーさんからしてみると、形よりも携帯電話が使えるようになればいいんですね。あ、そうなんだ、と。形にこだわって大上段に構えるよりもお客様の問題を先に解決してあげることのほうが優先されるべきだと気づかされました。その一言がワイヤードタイプの開発につながったんです。技術的に難しいワイヤレスにこだわる必要がなくなったことで、開発も少し楽になりましたね」(藤井常務)。

 その後も、実証実験は繰り返され、いよいよ市場に出せる段階まできましたが、依然として第2の壁はクリアされていません。開発ブログによって、市場との接点は多少なりともできましたが、それでも「どう売るか」という問題は積み残されたままです。
「我々がアンテナを単独で市場に出しても売れるかな、という疑問は常にありました。携帯電話の業界はキャリアさんを中心にタワー(縦型)になっていますので、圧倒的にキャリアさんのブランド力って強いんですね。だから可能であれば、キャリアさんに近いところで流れる仕組みを作ることができればいいなと思ったんです。じゃないと絶対マスまで辿りつかない、と。数百万人のユーザーさんが困っている市場でもブランド力がなければ使ってもらえませんから」(藤井常務)。

 商品ができても、いかに流通させるかというマーケティングのジレンマ。しかし、そうした閉塞感を打開してくれたのが、開発ブログと当社の「ケータイどっとこむ」という携帯電話のオプションパーツや周辺機器を販売するweb shopでした。電波やアンテナというとマニアックなイメージがありますが、web shopでは、できるだけ判りやすくソリューションとしてお客様に商品を提案しています。
「ブログをウォッチされていたあるキャリアのグループ会社様からワイヤレスのパッシブアンテナの照会が入ったんですよ。それが平成18年の1月のことです」(藤井常務)。
 そこから10カ月間かけて先方と共同開発の話し合いが続きました。そして、今年完成し、お客様にお披露目されたのです。
 「電波不感によるケータイのストレスから開放したい!」という思いから始まったプロジェクト。さまざまな壁にぶつかりながらも、その都度さまざまな巡り合いと試行錯誤の果てにようやく発売へと実を結ぶことになりました。実に3年という時間を要した一大プロジェクトでした。

 現在、ケータイ・スポット・アンテナは自社ブランドとしても発売されており、ワイヤレス・タイプのアンテナも商品化されております。

ワイヤードタイプのアンテナワイヤレスタイプのアンテナ
【写真2】
ワイヤードタイプ(左)とワイヤレスタイプのアンテナ。

「本当にいろいろな人に助けられて発売までたどり着きました。でも、これで終わりではありません。タワーマンションの増加によって電波不感に悩まされる人の数も増えてくることが予想されます。都会だけでなく、地方や山間郊外などさまざまな携帯電話の利用現場から多くのお客様の声が届いています。そういう人たちに私たちの商品が届き、そしてすべてのユーザーさんが不自由なくケータイ・ライフを楽しんでもらうことが私たちのイメージする姿です。そうなるまでには、技術的な問題だけでなく、今後は電波法などの法規制も緩和されて市場も変化するでしょう。まだはじまったばかりですよ(笑)」(藤井常務)。

 第1話、第2話と、開発責任者である藤井常務の話を中心に、開発初期から現在までを振り返ってきました。
 でも、それは3年というプロジェクトを考えたとき、ひとつの大きな筋道にしかすぎません。文中にもあったように、開発は多くの巡り合わせを経て、さまざまな人の連携のもと進められてきました。また、文中で紹介していませんが、ユーザーからの有益な声を開発現場に届けた営業スタッフなども、プロジェクトのなかでは大きな役割を担っています。
 そこで、次回からは、そうしたプロジェクトを支えた各分野の担当者・サポーターにスポットライトを当て、彼らの声を拾うことで、プロジェクトの細部に迫っていきたいと思います。
 ぜひ、ご期待ください。

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